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2012'12.03.Mon

金色のコルダ3 土岐SS「蛍は恋をあきらめて」

先日の神南祭りで購入しましたイベント限定CDを聞きまして、
ひっさびさに創作欲がむくむくと。
蓬生さんの新曲「恋い蛍」の歌詞を見て浮かんだ
千秋→かなで←蓬生の蓬生さん主体の構図でのお話にしました。
時期はソロファイナル。
確認のために久々にコルダ3のゲーム起動したので、
いくつかゲーム本編からの台詞そのままを使用しています。





蛍は恋をあきらめて



 8月21日、今日は全国学生音楽コンクールソロ部門ファイナル。
 神南高等学校管弦楽部部長であり、俺の幼なじみでもある東金千秋が出場する。
 対するは、横浜天音学園高等学校室内楽部部長、冥加玲士。
 と、手元のコンクールプログラムから目を上げる。
 ここは出場本番前の千秋の練習室。

「なぁ、千秋。本番直前の調子はどない?」

 一息ついたところで声をかけた。
 芹沢も紅茶の用意をしてくれとうところや。

「心配すんな、万全だ。冥王なんざ打ち負かしてくるぜ」
「ふぅん、なんやいつも以上に自信ありげやん」
「まあな。ゆうべの仕上げがうまくいったからな」

 昨日も遅うまで練習してたみたいやもんな。
 千秋は技術も感性も優れてるけど、なんの努力もせんと身についてるものやない。
 繰り返し繰り返し、練習を積み重ねてきた成果や。
 付き合わされるこっちは時々しんどなるけど、妥協をせえへんあいつの根性はさすがやと思うわ。

「昨夜は小日向さんも応援にお越しでしたようですしね」
「芹沢っ、お前なんでそれを……!」
「部長、副部長。お茶のご用意が出来ました」
「へーえ、そら練習もええ具合に仕上がるやろな」

 前々から思うてたけど、芹沢の情報把握力は恐ろしいもんがあるなって感心しつつ、うろたえる千秋を軽くからかう。
 あーあ、顔を朱に染めて、こんな可愛いところ久しぶりに見たわ。
 でもまあ、この後の本番に響いたらあかんから、このへんにしといたろか。

 しかし、夜分遅うに小日向ちゃんが応援に……か。
 横浜に来た時は、「地味子」やなんて侮ってたあの子は、全国大会セミファイナルまでの短い練習期間で色艶のある音を身につけて、今では千秋はあの子の奏でる音にベタ惚れや。
 いや、ヴァイオリンの音色だけやなくてあの子自体にも、やな。
 ほんの2週間足らずで、あないな成長見せるやなんて、面白い子やわ。
 傍で見てて、千秋の変わりっぷりも面白かったけどな。
 面白かったはずやけど……今はなんや、おもろない気もするんや。


 ***


「――続きまして、神南高等学校3年東金千秋くん」

 冥加の演奏が終わり、次は千秋の番や。
 千秋を見送りに、そして見守るために舞台袖に控える。

「曲は、テレマン作曲、無伴奏ヴァイオリンのための12のファンタジア第1番変ロ長調」

 まず最初は課題曲。
 緩やかなラルゴのテンポで、シンプルなメロディラインを響かせるヴァイオリンソロ曲。
 こういった清麗な曲調は、千秋はあんまり得意やない。
 千秋に向いてるんは、技巧が映える急速楽章の曲。
 情熱的に艶やかな音色を奏でることで、あいつは最大限に自分の魅力を曲に乗せて聴衆に届けることができる。

「あー、なんやろ。セミファイナルより緊張するわ」
「お前も心配性やな、なんで緊張するんや。お前が出るわけやないやろ、アホ」

 あれ、千秋が関西弁つこうとる。
 最近よそいきモードで標準語ばっかりやったのに。
 えらい久しぶりに聞いたなぁ。

「大体、俺には勝利の女神がついとる。誰が相手やろうと、俺が勝つに決まっとる」

 勝利の女神、ねぇ……。
 浮かべるのは小日向ちゃんの顔。
 応援以外の余計な感情も紛らせながら、眩しいライトに照らされたステージへ向かう千秋の背中を見送った。


 ***


 課題曲の演奏を終えて舞台袖に戻ってきた千秋の表情はやや険しい。
 いつもどおり、いや、今までこの曲を奏でてきた中で一番の出来やと思う。
 千秋らしい鮮やかな艶やかさをまとわせて、ゆったりとしたメロディを輝かせた。
 せやけど、全く違う解釈で演奏した冥加の音の力強さに、艶だけでは対抗できてなかった。
 苦手にしている曲調なだけに、若干ではあるけれどもやはり千秋に分がない。

「お疲れさん」

 今はこの言葉だけでええやろ。
 あと数歩も歩みを進めたら、部員の手前、いつもの「東金部長」に戻らなあかん。
 次の自由曲に向けて、反省会なんてしとう場合やないしな。
 舞台袖を抜けて楽屋に戻る千秋の後ろ姿を少し離れて追うてると、向こうの廊下の端に白と水色のセーラー服の姿がちらりと目に入った。

「なるほど、勝利の女神様の登場やね」

 部員たちと話していたせいか、千秋は小日向ちゃんがやってきたことには気付いてへんみたい。
 そのまま楽屋に入ってしもた。

「小日向ちゃん」
「あっ、土岐さん」

 そう俺の名を呼んで返事をした小日向ちゃんの表情は固かった。
 課題曲の千秋の演奏を聞いて、心配になって飛んできたんやろか。
 ぼんやりしてそうに見えて、意外としっかりしとう子やからな。
 信頼はしとるんやろうけど、居ても立っても居られないってとこやったんやろか。

「千秋が心配?」
「はい……あの、課題曲の方は東金さんが苦手な曲調だったから」
「大丈夫や、自由曲は千秋が思う存分に暴れられる曲選んでるんや」
「そう、ですよね」

 ぱっと明るくなる表情。
 ほんま、くるくる変わる表情でわかりやすい子やなぁ。
 面白い子やで。

「千秋に会いたいんやろ?」
「はい。お邪魔でなければ、もう一度頑張ってくださいって伝えたくて」
「ええよ、この先やから連れてってあげるわ」
「ありがとうございます!」

 嬉しそうなこの表情。
 この笑顔が千秋に向けられるのかと思うと、なんや、やっぱりおもろない。

「……千秋に渡しとうないな」

 思わず漏れ出たのは、本音。
 最初は千秋が小日向ちゃんに惹かれていくのを、他人ごとみたいに見てるのが面白かったんやけどな。
 千秋を惚れさせたこの子の愛らしい言動をずうっと見てたせいかな。
 俺も恋に落とされてしもたみたいや。
 
「え?」
「千秋のこと信じて応援したってな、って」
「はい、もちろんです」
「ええ返事や。……ここでちょっと待ってな、様子見てくるから」

 信じててええよ、きっと千秋は優勝する。
 なんせ、勝利の女神のあんたがついとるんやから。


 ***


 ふたりきりの楽屋でどんな話をしたんか分からへんけど、小日向ちゃんは客席へと戻っていった。
 冥加玲士の課題曲が終わり、千秋の自由曲。
 課題曲に引き続き舞台袖で聴く千秋の音は、いつもに増して華やかで、情熱的で、人を魅了する演奏やった。
 自分の演奏にはないこの音色。
 甘い音色という点では近いけれど、根本的に俺と千秋の音の方向性は違う。
 せやから、千秋みたいな音になりたいと思わへん。
 なりたいと思わへんけど、千秋の音は好きや。
 俺には奏でられへん力強い華やかさ。
 好きなはずやけど、今はなんや気に食わん。
 それは多分「千秋の音が」気に食わへんのやなくて、「千秋の音に似てきたあの子の音が」気に食わへんのやと思う。

 出会ってまだひと月も経ってへんというのに、小日向ちゃんのヴァイオリンは「華のある」音色に変わった。
 地味子地味子言うてたくせに、なんやかんやとちょっかいというか目をかけていたんは、あの子のほんまの実力を千秋は見抜いていたからやと思う。
 ただ可愛いだけの女の子に、千秋はああはならへん。
 千秋の音も俺の音も、他校の演奏者の音も取り入れて、あの子は大きく成長した。
 せやけど、やっぱり千秋が傍でわーわー言うてたから、千秋らしい音色に強う影響されてる気がする。


  恋に焦がれて 鳴く蝉よりも

     鳴かぬ蛍が 身を焦がす


 千秋にお前は蝉みたいやなんて言うたらキレよるかもしれへんけど、見てて聞いてて、分かりやすいくらいの強引なアプローチ。
 それは千秋の奏でる音と同じや。
 千秋の音と俺の音は違う。それとおんなじで、ああいう強引さは俺には似合わへん。あんなん、しんどなるだけやん。

 舞台上では千秋の自由曲が続いてる。
 大胆に弾き崩しつつも、クラシックのコンクールとして評価されることを考えたギリギリのラインでの演奏。
 千秋は演奏も、行動も、ほんまに面白うてゾクゾクする。
 優勝するのは当然と思っての過剰なほどの自信を持っての演奏。
 いつもやったらそれだけや。
 今日はそれだけやのうて、観客席におる小日向ちゃんの心を揺さぶりにきてるのが、よぅ分かる。
 演奏が終わって鳴り止まんこの拍手の中、あの子はまた千秋の音色に涙を浮かべるんやろうか。
 ともあれ、お疲れさん。ええ演奏やったで。
 ええ演奏やったけど、やっぱり、なんや知らんけど心の中がもやもやしてるまんまや。
 いや、知らんわけなんてない。
 分かってるんや、これは千秋に対する嫉妬やって。
 俺もな、やっぱり小日向ちゃんが欲しいから。


 ***


 最終結果は両名優勝。
 甲乙付けられへんとかファイナルの意味あらへんやん、何やそれ、とか思うたりもするけれど、優勝は優勝。
 これでまた、千秋の演奏の値打ちも上がったってもんや。
 賞状とトロフィーをもろて、一旦楽屋に戻る千秋。
 部員たちを前に満足気な表情やけど、なんか様子がおかしい。
 大方、あの子が来てくれるのを待っとるんやろね。

 廊下に出て、楽屋に入ってもええか迷ってる小日向ちゃんがおるんやないかと探してみる。
 ―― ビンゴ。やっぱりな。

「千秋の演奏に、そして優勝に興奮しとうけど、それを伝えに行ってええもんか迷うてる。そんなところに顔見知りの蓬生さんがいて、ほっと一安心。そんなとこ?」

 言い当てられて驚きの表情、そして言うた通りの安心しての微笑み。
 ほんま、この子は言葉に出さんでもすぐに分かる。

「千秋のこと、お祝いに来てくれたん?」
「はい! 宣言どおりに優勝だなんて、さすがは東金さんですね」
「言うてたやろ。あんたが信じてたら大丈夫やって」
「ふふっ、そうでした」
「勝利のお祝いにキスでもねだられるかもしれへんから、気ぃつけよ?」
「えっ、なんでそれを……!?」

 そないに顔赤らめて。ほんまに千秋とそんな約束してたってのがバレバレやで。
 なんやろ、これ。ムカつく。

「せや、今この場で、俺にもお祝いの言葉言うてくれへん?」
「あ、えと。同じ学校からの優勝ですしね」
「おめでとうございます、蓬生さん、って言うてや」
「あの……おめでとうございます?」
「蓬生さん、って名前が足りへんよ? ふふ、まあええわ。あんたに今日おめでとうって言われることに値打ちあるねんから」
「?」

 千秋の優勝にかこつけて、自分の誕生日の祝いを。
 と思うたけど、やっぱりちゃんと誕生日おめでとうって、言うて欲しくなってしもて。
 あかんな、どんどん強欲になる。

「勝利のキスって言うても、千秋のここに口づけなんかしたらあかんよ?」

 彼女の華奢な手を取り、屈んで目の高さを合わせながら俺の唇にそっと指先を触れさせる。
 ああ、このまま食べてしまいたいんやけど。

「千秋が拗ねるから、キスしてあげなしゃーないんやろうけど。まあ、せいぜい――」

 柔らかな横髪を除け、赤くなった頬に唇を触れさせる。
 そしてそのまま耳元で低く囁いた。

「ここ、くらいにしときや」

 あーあ、顔、真っ赤やで。
 ほんまに面白いなぁ、この子は。

「とと、とととっ、土岐さん!?」
「そろそろ千秋のとこ行ったって。俺のことは気にせんでええから」
「そっ、そう言われても!」

 批難混じりの表情に、ちょびっとだけ心が痛いけど。
 そんな無防備なあんたが悪いんやで?

「ほらほら、行くで。あいつ、あんたのこと待っとるやろ」

 手を取ってエスコートしてやりたいところやけど、それはそれでまた恥ずかしがるやろうし。
 それに、送り届ける先が千秋のところやなんて、なんや気ぃ悪い。
 ちょうど楽屋から芹沢が出て扉を閉めたところやった。

「副部長―― そしてあなたも」

 後ろからついてくる小日向ちゃんに気がついて声をかける。

「部長がお待ちかねですから、早く入ってあげてください」
「俺はお邪魔になるから、ここで。また夜にリンデンホールで会おな」

 ひらひらと手を振りながら、楽屋前を離れた。

「それではあなたはこちらへ。―― 部長、小日向さんがお見えです」



 鳴かぬ蛍が身を焦がす、か。
 俺は蛍でええと思ってたんやけどな。蝉に影響されてしもたんやろか。
 焦がし尽くして燃え尽きて、恋する思いさえ灰にして、死んでしまうのはやっぱり嫌やわ。


  諦めましたよどう諦めた

     諦め切れぬと諦めた


 蛍に徹することを、諦めました。
 千秋にゆずることを、諦めました。

 今日という日はまだ長い。
 さて、夜にでも、お姫様を連れ出しに行きましょか。
 そうして今度こそ、俺の19歳の誕生日のおめでとうを。
 ねだったら……あんたはどこまで俺にくれる?



Fine
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