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2007'12.24.Mon

幕末恋華・花柳剣士伝SS:クリスマス,陸奥,才谷

なんとなく、才谷に「くりすます」と言わせてみたかったからというだけの思いからの創作。
ちょこちょこっとだけ時代考察はしましたが、
近江屋事件の数日前に、新選組屯所に行ったりなんてしなかったよなーとか、
書き進めながら思ったりしつつ。

追記にて。


『クリスマスプレゼント』


「才谷さーん、そんなに買いすぎじゃないっスか?」
 とある甘味処の店先にて、青年が二人。
 大量の団子を包んでもらうのを満足げな顔で待つ青年に対し、彼よりは年下に見えるもう一人の青年が不平を述べている。
「構わん構わん。あそこは大所帯じゃしの。それに甘いもの好きの隊士も多いから、心配することはなか」
 あそこ、とはこの和装にブーツという珍しい出で立ちをした彼――才谷梅太郎と呼ばれる人物が頻繁に入り浸っている、新選組の屯所である。
 才谷という仮の名で、正体は明らかにせずに彼らと付き合っているが、一部の人間には知れている様子。
 尊王攘夷を唱える新選組にとって、開国を進める坂本龍馬の思想とは相対するものではあるが、彼の人柄ゆえに私的に付き合いがなされているのであろう。

 店を出て、団子の入った包みを二人はそれぞれ1つずつ持ち、七条堀川通方面へ向かう。
 かの新選組の新しい屯所がある不動堂村である。
 この秋に新しく移転した広大な敷地は、まるで大名屋敷のようであるが、彼らはこのしばらくのちに伏見警護のために伏見奉行所へと移転することになる。
 ――時に、慶応3年師走のことであった。


「これだけありゃ、皆も喜んでくれるぜよ」
「筋肉バカどもだから、食えりゃあ何でもいいんでしょうよ」
 ご機嫌な様子の才谷に対し、あまり乗り気ではないのは陸奥陽之助という男。
 才谷に心酔して付き従っているため、心ない者からは金魚のフンだの、腰巾着だのとからかわれることも多いが、それでも才谷に学ぶことは多く、行動を共にすることが多い。
 才谷とは異なるのは、陸奥はあまり新選組を良く思っていないこと。
 武で解決をするかの一団は、彼にとっては野蛮なものと感じている。
 もっとも、陸奥が武術の腕がからきし駄目だからという引け目もあるのかもしれないが。
「皆っていうより、あの女隊士でしょ?」
「おお、そうじゃ。鈴花さんには一番よぉ食うてもらわんとの」

 男所帯の新選組で、唯一の女隊士。桜庭鈴花という女に才谷は本人曰く「めろめろ」。
 顔も十人並みで、ちょこまかと動く豆だぬきみたいな女のどこがいいのか、と陸奥には理解できないところ。
 愛嬌はあるので、彼にしてみれば「中の下」程度の評価しかできない。
 そんな女に、才谷は先日パンチを食らったなどと笑顔で言っていた。
「いやー、まっことええ、右すとれーとじゃったぜよ」
 頬をさすりながらも嬉しそうな才谷を見てムカムカとした思いを抱いた陸奥。
 才谷ほどの男に手を上げる女など、無礼千万。
 そういった怒りの思いだけではなく、才谷にこんな表情をさせる他の人間がいることに対してのいわゆる「ジェラシー」というものだとは、本人は気づいてもいないのだが。


「はいはい、あんまり食わせてばかりいると、もっと丸っこくなりますから気ぃつけてくださいね」
「ええがええが。女は柔こい方が気持ちええじゃろ」
「……全く、何の話してんですか」
 呆れ顔の陸奥を無視して才谷は続ける。
「陸奥君はもっとしゅっと細いおなごのが良かったかの。ほれ、倫さんみたいな」
「なっ! なんであんな女!!」
 もし茶屋でお茶を飲みながら話していたりしたら、霧のように盛大に噴き出しでもしたであろうほどに、動揺する陸奥。

「ほれ、これを持って花柳館へ行っとおせ」
 才谷が持っていた包みから、その半分ほどの包みを取り出して陸奥に手渡した。
 まだ温かさが残る団子が、師走の寒さに凍えた手のこわばりをほぐす。
「え?」
「そっちのでっかい包みはわしが新選組に差し入れるから」
 陸奥が持っていた方の包みと、才谷が持ったままの残りの小さい包みを持って、彼は再び歩き出した。
「どうせ近くなんじゃから、花柳館にも持ってっちゃれ」
 確かに、花柳館がある島原は、ここから目と鼻の先。
「陸奥君はあまり新選組が好かんのじゃろ? 嫌いじゃからと言うて避けるばかりもええとは思わんが、わしにばかり付き合わんでもええから」
「いや、でも……」
「彼らんところへの用事が終わったら、わしも花柳館へ向かうから、団子でも食いながら待っちょってくれ」
「はあ……」


 辻を曲がって別方向へ向かい始めた才谷が振り返る。
「おおそうじゃ、陸奥君も倫さんに言うとくんじゃぞ」
「へ? 何を……でしたっけ?」
「くりすますじゃ、くりすます。25日に届けに来るから、待っとおせと言うておかんと」
 クリスマスとは、キリスト教での祝いの儀式がおこなわれること。
 イギリスでは25日にサンタクロースなる老人がプレゼントを持って来るという言い慣わしがあるそうだ。
 和親条約締結はなされたものの、西洋人が信じるキリスト教の禁止令はまだ布かれたままである。
 それに、才谷がキリスト教に身を置くなどとも聞いたことがない。

「クリスマスっつーか、プレゼントの口実でしょ?」
「まあ、そうとも言うがの。西洋の面白かしきたりじゃ。ちょいとやってみたいとも思わんか?」
「……はいはい、お付き合いしますよ。あいつに言っておけばいいんでしょ」
「わしは鈴花さんに贈るから、倫さんにはおんしだけが贈るんじゃがな」
「げ、マジ……?」
「同じ日にぷれぜんとしちゅうなら、わしのとおんしのと、比べられるのも嫌じゃろ?」
「まあ、そうですけど」
 普段物を贈り慣れている才谷と違って、自分はあまりそういうことをしたことがない。
 それどころか、茶屋に行って彼女を置き去りにして帰って呆れられたこともあった。
 以前はあまり気にもしていなかったが、最近になって彼女を意識しはじめてからは、時々自分の傲岸不遜な態度で彼女を不快にさせたのではと振り返ることもあった。
 その詫びにとして、プレゼントをする口実があるというのは、自分にとっても実は都合がいい。


「そいじゃあな、陸奥君。またあとで」
 ご機嫌で新選組に、桜庭に会いに行く才谷。
 彼の胸中では、彼女には何が似合うかとの思案が楽しく踊っていたが、実際にそのクリスマスプレゼントが贈られることはなかった。
 彼が何者かに襲撃される近江屋の事件は、この数日後のことだった。
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